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2010年1月30日土曜日

MAP ~Project決定~

かねてよりBiddingしていたMAPのプロジェクトが決定した。私はオーストリアに本拠を置く自動車関連計測機器の開発・製造会社(以下A社)を4人のチームで担当することとなった。

Biddingする際にも少し調べたのだが、この会社、オーナーが100%の株式を所有する非公開会社で財務諸表等が開示されておらず、財務面から経営内容を確認することができない。会社のWebsiteやビジネススクールのデータベースで調べてみると、特に欧州においてシェアが高く、自動車開発過程においてソフト面で重要な役割を果たしているようだ。すでに米国には進出しており(実際今回プロジェクトの直接の対面は北米オフィス)、近年は中国、インド等での市場を広げようとしている模様。

もうちょっとバックグラウンドの情報が欲しかったので、業界に詳しそうなクラスメイト(彼はトルコ出身で前職はフォードで生産管理やマーケティングをやっていた)に聞いてみることに。彼曰く、

1. 欧米では自動車開発過程に深く入り込んでおり、いくつかの完成車メーカーはA社無しでは新規のエンジン開発が出来ないほど(それらの完成車メーカーはマーケティング、調達、組立工程に注力しており、純技術的な課題解決にはA社のような外部のエンジニアリング会社を使っている)。
2. 特に強いのは膨大な開発データベースに支えられたベンチテスト~シミュレーションの能力と経験
3. コスト削減のため、完成車メーカー側に新車開発期間短縮ニーズが高まる中、存在感はますます高まっている。

面白い立ち位置の会社である。逆に日本での存在感があまり無い理由もここにあると思われる。日本ではこれらのExpertiseは主に完成車メーカーとTier1サプライヤーによって保持されていると考えられるので(最近は変わってきているのかもしれませんが)。

さて、チームメイトだが、みんなバックグラウンドが違い、面白い組み合わせになった。まず最年長のBは中国人で自動車業界での経験が長く、渡米直前はDelphiでSales Managerをやっていて、さらには中国で自分で小さい工場を経営していた経験もあるそう。実は彼とはサマースクールのMarketing Projectでも同じチームだったため、チームを組むのはこれで二回目である。

アメリカ人のCは元経済官僚でWashington DCでGDPとかのマクロ経済データ作成・分析をしていた。ただしKarmann Ghiaを所有し、自分でレストアする程の生粋のカーマニアで、自動車に対する情熱が抑えられなくなり、ついには自動車業界に転進するためのきっかけとしてMBAを選択したのだとか。アメリカ人には珍しく饒舌ではないが、いい人。

もう一人のアメリカ人のEは父親がドイツからの移住者で、本人もドイツとの二重国籍を保持。英語、スペイン語に堪能なのにドイツ語はあまり話せないようで、あまり期待しないでくれ、との本人弁。コンサル業界出身らしく、よくしゃべるし、パワーポイントの作成技能にはかなりの自信を持っている。

で、最後に私は日本の大手メーカー出身で主に営業と財務・経理のバックグラウンド。担当として自動車業界との直接の接点はなかったものの、かつて営業で扱ったことのある製品が近年自動車向けに今回プロジェクトと関連ある分野で適用拡大されているとの事で、昔を思い出しながら取り組むことになりそうである。

担当するテーマは、該社のある製品・サービス群の北米マーケット調査と一次的なマーケット戦略立案とのことだが、該社の企業文化、競争力、技術的・人的リソースに関する理解を深めるために、1週間と期間は短いがヨーロッパ出張も予定されている。

2010年1月11日月曜日

MAP ~Bidding~

ビジネススクールを受験して、何校か合格をもらった中で私が最終的にミシガンへの進学を決意した最大の理由がこのMAP (Multidisciplinary Action Projects)の存在であった。平たく言うと約二ヶ月弱のインターンシップがコア科目の一つとして一年目の最終学期に組み込まれているのである。これまで一つの会社でしか働いたことが無い私にとっては、是非留学期間中に他社でインターンをやってみたかったのだが、社費派遣のため、インターンは会社から禁止されている。よって、授業の一環としてインターン(のようなこと)ができるこの制度は私にとって理想的だったのである。

さて、そのMAPであるが、今年は最終的に120近いプロジェクトがアメリカ国内外の企業から学生に提供された。それでもMAPオフィスがかなり絞り込んだ結果だと言っていたので、元々のオファーはそれ以上あったということである。ミシガン大学にプロジェクトを依頼する会社側の動機としては、比較的安価にコンサルティングサービスを利用できるという面や、MAPを採用活動の一環として捉えている面があるようである(実際、MAPを通じてサマーインターンのオファーを得たという話も聞く)。

学生は、その120近いプロジェクトの中から自分の希望するTOP10プロジェクトを順位を付けて登録する。そしてMAPオフィスが学生の希望と会社側の希望、学生の職務バックグラウンド等を総合的に勘案してチームを組成するのである。

私はもともと製造業の国際展開に興味があったので、主にグローバル製造企業を中心にセレクトした。また、折角なのでこれまでとはまったく違った経験をするのも面白いなと思い、いくつかのスタートアップカンパニーもリストに加えておいた。

最終的にどの会社を担当することになったとしても、面白い経験になりそうで今から楽しみである。選考の結果は、1月下旬に判明する。

2010年1月10日日曜日

2010WinterA

Ross School of Businessでは、1年目の秋学期が主に必修科目の履修、冬学期の前半(Winter A)は必修に加えて選択科目も始まり、冬学期の後半(Winter B)はいよいよMAPプロジェクトのスタートとなる。今期はオペレーションマネジメント、管理会計等の必修科目に加え、企業価値評価やビジネスコミュニケーション等の選択科目を履修した。以下、主な授業の概要と特に印象に残った点について記しておきたい。

OMS552(オペレーションマネジメント)
オペレーションの役割は、企業が自社の競争優位性を具現化することであるとの考え方に基づき、製造業や流通業における生産管理や在庫管理に始まり、サービス業におけるサービス品質の維持・向上、統計的手法による品質管理(Six Sigma等)、Project Management等のテーマをカバーした。生産管理については、トヨタ式生産方式(TPS)が「世界で最も模倣されている、しかし完全に模倣することが難しいオペレーションモデル」として取り上げられ、製造業の分野のみならず、TPSを病院経営改善のツールとして導入した事例などが紹介された。また、5Sの考え方もその英語訳 (Sort, Stabilize, Shine, Standardize, Sustain)とともに導入されるなど、当該分野では日本発の知見が多く取り上げられた。在庫管理において新鮮だったのは、単にミニマム在庫を追求するのではなく、発注コストと在庫コスト(陳腐化、値下げ、評価減等のコスト)を考慮に入れた経済合理的な最適発注量と発注タイミングの考え方であったが、これは主に流通業におけるオペレーションを視野に入れたものと言える。また、在庫を持つ事は、異なる生産スケジュールで稼動する工程間のバッファーとして働く一方で、オペレーション上の課題を見えにくくすることから、これを在庫を持つことの機会コストとして認識する考え方がある。そこでむしろあえて低い在庫水準を設定したり、在庫の中身を精査することでオペレーション上の課題を浮かび上がらせ、工程実力の改善に繋げていく手法が議論されており、これは能動的在庫管理と呼ばれている(具体例の殆どが日本企業であり、米国における実例を聞くことは出来なかったが)。

ACC552(管理会計)
主に二つの目的、すなわち、①企業の経営上の意思決定や経済性評価に資するコスト情報の提供、②個人や部門の業績評価とインセンティブ付与といった内部管理上の定量情報の整備、のためにどのように管理会計システムを整備し、活用するかというテーマに即して、各授業毎にケース分析を通じて議論した。第一のコスト情報の整備については、Activity Based Costing(ABC)というコスト計算手法に基づいて実態コストを把握する手法が紹介された。また、どのようなコスト情報がどのような形で必要かについては、企業戦略(なにを実現したいか)によって異なるため、外部環境や戦略が大きく変わったときにはそれに応じて管理会計も見直しが必要であることを実例を通して検証した(小ロットによるコスト増を社内管理会計上反映していなかったため、小ロット注文ばかり集まってしまった企業の例など)。第二の業績評価については、異なる国・地域における事業の実績評価をどのように行うのか(営業利益・ ROI・EVA等のベンチマーキングによる相対評価、対予算での達成度評価等)、部門業績の最適化だけでなく、全社最適化を志向させるためにどのようなインセンティブ設定が必要か、などについて学んだ。また、売上や収益等の定量的評価項目はどうしても過去の短期業績評価に偏りがちであるので、将来に向けた事業戦略の仕込み、部下の教育、他部門へのノウハウの提供など、定性的評価を併せて用いたり(バランスド・スコアカード)、将来の業績に影響を与える先行指標の動向も考慮に入れた総合的評価を用いることを学んだ(Citibankの支店長業績評価の例等を参考に)。

FIN615(企業価値評価)
企業価値をどのようにして算定するのか、その理論的な基礎に加え、実際に投資銀行やPEファームが企業価値やオファー価格の算定を行う場合の実務について、手を動かしながら理解を深めたいと思い受講した。まず、基本的なEnterprise DCF法やIRRによる評価を再確認した上で、Economic Profit法やAPV(Adjusted Present Value)法等についても学習し、それぞれの評価方法の特徴と、どのようなケースで適用するべきか演習を通して確認した。次に、乗数法(Multiple)の概要、及び実際の企業買収における買収価格算定の実務について、講義とケース分析とを通じて学習した。企業価値評価の際の妥当な将来キャッシュフローの予測やシナジー効果の織込みについては、対象業界における知識や経験が必要とされるため、実際の企業買収における買収価格検討においては、直近実績(例えば直近12ヶ月)を元にした乗数法による評価が使われることが多いようである。ただし、乗数法による買収価格検討は短期業績の変動の影響を受けるため(特に短期の業績変動が激しい場合)、基準となる実績を平準化する必要があることや、たとえ同じ業界内の企業との比較であっても、財務構造(内部留保キャッシュの多寡)や設備の保有形態(自社取得かリースか)の違いが評価に歪みをもたらすため、比較の際には適切な補正が必要であることなどを学んだ。 なお、価値評価とは直接関係ないが、米国においては、企業買収に関する規制がそれぞれの州において異なるため、企業買収スキームは買収対象企業の設立準拠州法の規定を勘案して設計される必要がある。有名なのはデラウェア州で、NY証券取引所上場企業の約半数がデラウェア州法を準拠して設立されているそうである。また、ペンシルバニア州法も敵対的買収の手続きを厳格に定めているとして有名である。

LHC524(ビジネスコミュニケーション)
国際的なビジネスシチュエーションにおける効果的なコミュニケーションスキル(プレゼンテーション、E-mail、レポート作成)の向上を目指して受講した。授業の内容は、そもそも説得力ある効果的なコミュニケーションはどのような要素から成り立っているのか、という理論面から、実際のプレゼンテーションや文章作成の演習までをカバーしており、事前の予想以上に実践的であった。説得的であるとは、①自己の主張を具体的な事実やデータに基づいて論理的に組み立てること、②聞き手の特性や立場に応じて、相手が受け入れやすいように柔軟に議論を展開すること、の二つの要素から成り立っているとし、この二つの要素それぞれについて講義と演習を通して学習した。例えば、米国に進出した日本企業の現地法人従業員向け慰労パーティーで、日本人社長が業績改善に向けた奮起を呼びかけるケース、東南アジアに進出した米国企業の現地マネジャーが米国本社社長に自らの副社長昇進を意見具申するケース等の場面設定における演習を行った。これらのケースにおいては、価値観やビジョンの共有化だけでなく、むしろ相手にとって何が「得」なのか、メリットベースで説得の理屈を構築することが早道であり現実的である、というのが担当教授のスタイルであった。また、授業に参加した米国人や他国からの留学生との共同ワークを通して、各国のコミュニケーションスタイルの特徴についても理解を深めることができた。一方で、そうはいってもコミュニケーションスタイルは国や人種毎にステレオタイプで一括りにできるものではなく、個人差が非常に大きいことも改めて確認でき、興味深かった。例えば同じ米国人でも、直接的で断定的な表現を好む人ばかりではなく、「ここは言いにくいところだからもっとオブラートに包んで言った方がいい」等、非常に相手に気を使うタイプもいた。